生きづらくとも

憂鬱ななモノローグ

愛と青春の旅立ち

 昨日の雨が花を散らして今年もまた桜の見頃をやり過ごしてしまったのは残念といえば残念ではあるけれど来年があるからと毎度言い聞かせて自分を慰めることの終わりが実感できるようになってみるとそれは残念の一言で済ませられないような気もするし日々無駄な時間を過ごすことよりもっと大切なものを失っていく瞬間をただ放置してるようで鬱々と脳髄に浸透する負の粘液はやはりドス黒い色をしているのだろう。

キャンパスに続く長い桜並木の通りを過ぎ誇らしげな気持ちで大学の正門をくぐった日のことは何年経ってもこの季節になれば思い出す。 その時は自分の未来もこの社会の未来も希望に満ちていて現在の何もかもがドス黒さの一歩手前の醜く形容し難い不快な色彩に染め上げれた世界について何を言っても下手な冗談くらいに扱われてまともにとりあう人もいないに違いない。

四月の大学キャンパスは部活やサークルの勧誘以外にも新入生を歓迎する催しがちらほら行われていて映画研究会だったか愛好会だったか名前は忘れたけどとにかく映画好きな学生の集うサークルが主催する新入生歓迎映画鑑賞会で上映された作品がその年は「愛と青春の旅立ち」で映画のストーリーはともかく確かにみな青春真っ只中だし新しい生活に旅立ったところでもあったから安易といえば安易だけれどこのタイトルの映画をかけることはそう悪い選択ではないと思うしようやく受験勉強から解放されて一ミリも頭を使いたくない身にはとりあえず毒にはならない。 今だったら多方面から叩かれまくるに決まってるこんな映画が普通に観られていた時代は映画館やそれらに類する場所で映画を観ること出来なくなったことを思えばこのこと一つとってみても幸福だった。